2.吃音の特徴と原因


2.吃音の特徴と原因

 吃音の原因は過度の緊張や吃音に対する不安・恐怖だ、という考え方があり
ます。しかし、単なる緊張や不安・恐怖が原因なら、苦手な場面を何度も体験
すれば克服できるはずです。吃音者はリラックスした、不安も恐怖も感じない
場面でも吃ります。逆に、緊張したり不安や恐怖を感じても、自分が苦手な場
面でなければ吃りません。それに、吃音を完全に受容して不安や恐怖もなく吃
りながら話している吃音者も、症状は変わりません。また、スピーチが苦手な
吃音者は、演台に立つ前の心理的な緊張や不安・恐怖を感じた時から吃るはず
ですが、その吃音者が吃るのは演台で話そうとした瞬間であり、話すのを放棄
した瞬間、吃音症状も様々な身体反応も一瞬で消えてしまいます。以上の事か
ら、心理的緊張や吃音への不安・恐怖が吃音の原因ではないと思います。

 また、幼少期のトラウマや無意識の心理的抑圧が原因だとする、精神分析的
な考え方もあります。もしそうなら、吃る場面や状況はその心理的抑圧に関係
するものに限定されるはずです。しかし、吃音者は心理的抑圧とは無関係な日
常生活の普通の場面や状況で吃るし、苦手な場面や状況は生活体験によって変
化し、増えたりします。何より、心理的な抑圧が原因なら、心理療法による治
療効果があるはずですが、様々な心理療法による吃音改善の成果は上がってい
ません。以上の事から、心理的抑圧も吃音の原因ではないと思います。

 別の考え方は、「吃音者の発声や呼吸に問題がある」というものです。しか
し、吃音者は吃っていない時は正常に発声しており、呼吸も正常です。何より、
一般の正音者は、腹式呼吸や正しい発声法で話している訳ではありません。ま
た、発声や呼吸が原因であれば、正しい方法をマスターした瞬間に治るはずで
すが、そんな例はありません。それに、正しい発声法や呼吸法をマスターして
いるはずのプロの俳優や歌手の中にも吃音者が存在します。発声や呼吸に問題
があるから吃るのではなく、吃った時に発声や呼吸に問題が出るのです。

 吃る苦手な場面や症状のタイプが人によって違う、吃音症状の程度が人によ
って極端に違う、苦手な場面・状況が生活体験によって緩慢に変化する、意思
で制御できない様々な身体反応がある、発症時期は幼年期が多い、年齢が若い
と改善が早い、といった様々な事実から考えると、吃音は学習された反応だと
考えられます。吃音は個人が生活体験の中で学んだ反応パターンであり、日々
の学習によって固定化されながらも変化するのです。その具体的なメカニズム
は「条件反射」だと思います。なお、条件反射は人間の様々な反応や行動に広
く関係する事から、最近の心理学では「条件反応」と呼ばれています。