3.吃音反応の形成過程


3.吃音反応の形成過程

 吃り始めた当初の吃音には、何らかの理由や目的があったと考えられます。
例えば、幼年期の脳における言語の理解能力と発語能力のギャップであったり、
驚愕や叱責による吸気反射や「すくみ」という自己防衛反応であったり、嫌な
相手を避けたり、逆に母親の関心を引こうとする無意識の欲求であったり、初
期の吃音には生理的な理由や、何らかの無意識の目的があったと考えられます。
しかし、成人吃音者が現在も同じ理由で吃っているとは考えられません。吃音
が始まった原因やキッカケと、今でも吃り続けている原因は別だと思います。

 様々な理由が背景となり、あるキッカケで吃音が始まります。例えば、恐い
教師に突然指名されて慌てたり、近所の吃音者の真似をしたり、言い間違いを
笑われたり、人によって様々です。幼児期なら明確な記憶が無いかもしれませ
んが、最初のキッカケが吃音の出発点となり、同じ反応が何度か繰り返されて、
吃音の反応が形成されます。この吃音反応を固定化・習慣化したものが吃音の
メカニズムです。吃音の固定化メカニズムが働かなければ、当初の吃音の目的
や理由が消滅すれば、吃音も自然と治ったはずです。実際、幼児吃音者の80%
が自然治癒しています。最初は生理的な原因や心理的理由で吃音が始まったと
しても、当初の理由に関係なく、成人吃音者が今でも吃り続けるのは、このメ
カニズムが働いているからです。吃音を改善するには、過去の理由やキッカケ
は関係ありません。固定化のメカニズムを変えなければなりません。

 吃音反応が繰り返されると条件反応が形成され、同じ条件刺激があると、吸
気反射やすくみ反射等の様々な身体反応が起こり、話し難い状態となります。
そして、生活環境の影響と吃音時の対応によって、苦手な条件刺激や吃音のタ
イプが決まり、症状の程度が変化します。苦手な場面が形成され、力んで無理
に発声すると難発に、引き伸ばして発声すると伸発に、何度も繰り返し発声す
ると連発になります。吃る度に条件反応が強化され、症状の固定化と同時に、
苦手な場面や吃音のタイプ、症状の程度が個人毎に様々に変化して行くのです。

 吃音が条件反応であると考えると、吃音を引き起こす条件刺激が人によって
違う事、症状のタイプや程度が人によって大きく違う事等、吃音の不思議な現
象も説明できます。吃音が条件反応であるなら、発声器官や発声方法の問題で
はなく、精神的心理的な問題でもありません。脳の神経細胞が関与している身
体的生理的な反応であり、意思で制御できない身体反応です。吃音の様々な現
象や法則性は、脳の神経細胞の反応原理と条件反応の強化原理で説明でき、吃
音改善の方法やポイントも見えてくると思います。