4.吃音のメカニズム


4.吃音のメカニズム

 吃音が条件反応であるとして、その発生メカニズムを図式化すると、3つの
大きな要因に分けて考えられます。心理反応と条件反応(身体反応)、随伴運
動や随伴症状です。吃音の症状は、それらの反応の集合であり結果です。

 我々吃音者は各自が吃りを引き起こす特定の条件刺激を持っており、身体が
その刺激に反応して吃ります。例えば、電話や会議での報告といった特定の場
面や、恐い上司や教師といった特定の人物、一定以上の人数、特定の地名や人
名等の固有名詞、ア行やタ行といった苦手音等が条件刺激となります。

 先ず、話す前に苦手な条件刺激の存在を予期した段階で心理反応が起こり、
予期不安や吃音恐怖を感じます。しかし、苦手なスピーチの順番を待つ間に予
期不安を感じても、雑談では吃りません。演壇に立って話そうとして、条件刺
激に発語意思が加わった瞬間に条件反応が起こります。そして、呼吸が乱れた
り、脈拍が速くなったり、汗をかいたり、といった様々な身体反応が起こりま
す。その結果、発声器官がうまく働かない状態で無理に話そうとして吃ってし
まいます。この時、どのような対応(不自然で無理な発声)をしたかによって、
難発や連発、伸発といった症状のタイプが形成されます。また、吃音状態の解
除のために、意識的に随伴運動を行えば、それはやがて無意識の随伴症状とな
り、手や腕を振ったり、体を捻ったりする不自然な動作が加わります。

 時間経過から言えば、最初に心理反応による心理的緊張が起こり、話す瞬間
に条件反応による身体反応が起こり、それに随伴運動による不自然な随伴症状
が加わる、という流れになります。吃音の症状は、心理反応、身体反応、吃音
症状、随伴症状という順番に進み、強化されます。症状が重い吃音者には随伴
症状があり、身体反応も大きく、結果として吃音症状も大きく出ます。

 吃音を改善する場合、最初に治すべきは随伴運動や随伴症状です。意識的に
行っている随伴運動を止め、無意識の随伴症状を無くし、苦手な条件刺激に慣
れて身体反応を抑え、吃音症状を改善します。そして、吃音症状が消えた結果
として、やがて心理反応も自然に消えて行く、というのが吃音改善の大きな流
れだと思います。吃音の症状が消えても心理反応はしばらく残りますが、吃ら
なくなれば、やがて予期不安や吃音恐怖も自然と消えるでしょう。先に心理反
応を消そうとする治療法は、症状の改善には結びつかないでしょうし、そもそ
も心理反応を消す事はできないと思います。不安や恐怖はそのままに、先ず随
伴症状を無くし、身体反応を消す事が重要です。