5.条件反応の原理と種類
条件反応は人間の殆どの行動や反応と同様に、ニューロンと呼ばれる大脳の
神経細胞が外部の刺激に反応して起こるものです。条件反応は、過去の経験に
基づいて学習された反応パターンであり、特定の条件刺激が引き起こす無意識
の身体反応です。条件反応には2つの種類があり、人が生来持っている生体反
応である反射と中性的な条件刺激が結びついたレスポンデント条件付けと、報
酬や誘因となる弁別刺激が引き起こすオペラント条件付けがあります。レスポ
ンデント条件付けは古典的条件付けとも言われ、オペラント条件付けは道具的
条件付けとも言われます。吃音は、レスポンデント条件付けです。
吃音は感情と身体反応の2つを同時に伴い、意思でコントロールできないレ
スポンデント条件付けによるものです。その発生原理は、人間に生来的に備わ
っている生体反応である反射(例えば、驚愕した時や天敵に遭遇した時に息を
吸い込んでしまう「吸息反射」や、体が硬直する「すくみ反射」等)を引き起
こす刺激(無条件刺激)と、日常生活の中にある中性的な刺激(条件刺激)と
が結びついて、無意識の身体反応パターンが形成される事によるものです。
例えば、小学校の国語の授業中によそ見をしていて、怖い担任の男性教師に
激しく叱られたとします。その結果、驚愕して体がすくんだり、息を吸い込ん
だままになったりします。これは人間が本来持っている自然な防衛反応であり、
その状態で朗読をしようとしても上手く読めません。偶々、このような体験を
何回か繰り返すと、恐い担任教師に朗読を指名されると、叱られてもいないの
に激しく叱られたと同じ身体反応が出てしまい、吃ってしまう訳です。担任教
師や朗読という中性的な刺激が、すくみ反射や吸息反射と結びつき、担任に朗
読を指名されると、叱られたと同じ反応を起こしてしまい、結果的に吃ってし
まうのです。これが吃音の条件付けの形成プロセスの例です。そして、吃音を
繰返す事により、吃音の条件反応はより強化されてしまいます。やがて、他の
先生の前でも、朗読以外の場面でも吃るようになってしまいます。
我々が吃った時に、吸息状態になったり、舌や唇が硬直したと感じたり、ド
キドキしたり、視線が固定されたりする反応は、条件反応による身体反応なの
です。これは、天敵に遭遇した際に、逃げるエネルギーを溜めるために大きく
息を吸って止めたり、敵の動きを注視したりするような、自己防衛反応です。
条件反応を繰返すと、条件付けのキッカケとなった過去の体験とは無関係に、
意思で制御できない身体反応が起こるようになります。高所恐怖症や閉所恐怖
症も、吃音と同じレスポンデント条件付けによる条件反応です。