6.条件反応の強化原理


6.条件反応の強化原理

 吃音の条件反応は、脳の神経細胞が話す場面に存在する特定の条件刺激に反
応して起こります。この反応回路は、吃音反応を繰返す事により強化されます。
条件反応は、以下の3つの原理によって段階的に強化が進みます。

 先ず、「汎化」又は「般化」という、条件反応を引き起こす条件刺激が拡が
る現象です。最初のキッカケになった刺激に良く似た別の刺激にも反応するよ
うになります。例えば、恐い担任教師にだけ反応していたものが、同年代の男
性教師にも反応するようになり、やがて誰の前でも吃るようになります。この
汎化は互いに良く似た同種の刺激間で働き、反応する条件刺激がどんどん増え
てしまいます。その結果、吃る場面や相手が一気に増える事になります。

 次に、反応する条件刺激が細分化される「分化」又は「弁別」という現象が起こ
ります。条件刺激が反応するものと反応しないものに分かれ、反応する刺激域
が狭くなります。狭くなるだけなら改善ですが、狭くなると同時に深くなり、
普通に話せる場面と酷く吃る場面に2極分化します。例えば、誰の前でも吃っ
ていた新入社員が、先輩社員だけに吃るようになり、やがて上司だけに吃るよ
うになります。普段は流暢に話すのに、特定の場面や相手だけに酷く吃る吃音
者は分化が進んだケースです。分化が進むと、吃音改善は難しくなります。

 最後が「階層化」又は「抽象化」という現象です。「汎化」や「分化」は、
条件刺激が同じ種類の別の条件刺激と結びついた1次的条件付けであり、条件
刺激の水平方向の変化です。しかし、「階層化」や「抽象化」は、これまでの
条件刺激と種類の違う別の条件刺激と結びつく高次的条件付けで、垂直方向の
変化です。苦手音がその代表例です。本来、音や言葉という抽象的な刺激は条
件刺激にはなり難いのですが、様々な場面や状況で吃る反応を長年繰返した結
果、共通する音や言葉という、抽象的な刺激に条件付けられた訳です。例えば、
「おはよう」の挨拶と「おがわ」という名前が苦手な人が、“オ”で吃る反応
を繰返した結果、“オ”という抽象的な記号が条件刺激となってしまいます。
苦手音は吃音の強化がより進んだ結果であり、苦手音の消去は非常に困難です。

 以上のような強化原理が絡み合い、吃音者個人の条件刺激は個人の生活体験
によって変化し、強化されます。汎化によって吃る場面が増え、分化によって
吃る場面と吃らない場面が明確に分かれ、階層化や抽象化によって特定の苦手
音や苦手言葉が形成されます。このようにして、吃音の症状や条件刺激は人に
よって変化し、一律的な方法での吃音改善が困難になるのです。