7.条件反応の消去原理


7.吃音の条件反応の消去

 心理学での条件反応の消去原理は、条件刺激だけを連続提示して無条件刺激
を提示しない事です。やがて反応は起こらなくなり、条件反応は消去されます。
これは、オペラント条件付けには有効ですが、吃音のようなレスポンデント条
件付けでは有効に働きません。それは、吃音の条件刺激が無条件刺激と同様の
力を獲得し、無条件刺激がなくても吃るからです。また、吃音は実際に話す場
面で起こるため、吃っても話す事が優先され、吃音の強化に結び付くからです。

 また、条件反応の強化段階が進むにつれて、条件反応の消去は困難になりま
す。「汎化」の段階なら消去は難しくありませんが、「分化」の段階以降に入る
と消去は困難になります。多くの場面で平均的に吃る重く見える吃音者より、
流暢に話せる場面の多い軽く見える吃音者の方が、改善に時間がかかります。
特に、「階層化・抽象化」段階で形成された苦手音の消去は非常に困難です。
 
 吃音の条件反応は何年も反応が無くても消えません。対人関係での困難な場
面を巧みに避けて、何年も吃らなかったとしても、苦手な場面に直面すれば吃
ります。また、条件反応の消去には時間がかかり、一挙に改善はできません。
例え、吃音が一時的に改善できても、より強い刺激に遭遇すると反応が戻る、
脱制止とか感作と呼ばれる現象もあります。その他にも、条件反応には消去を
難しくするいくつかの現象があります。
 
 先ず、条件反応の消去訓練の効果が、訓練を休止している間に消えていく「自
発的回復」という現象があります。吃音改善の訓練の間隔が空くと、改善効果
が消えてしまう訳です。また、改善訓練によって、ある場面でまったく吃らな
くなっても、その効果は一時的なものです。効果を定着させるには、吃音反応
が出なくなってから更に過剰に訓練しなければならないという「過剰学習」と
いう現象もあります。ある場面で吃らなくなっても、しばらくは訓練を続けな
ければなりません。神経細胞が反応しなくなっても、細胞内部での学習は進行
中なのです。そして、吃音の条件反応が消去できたとしても、より強い条件刺
激に遭遇して偶々吃ってしまえば、吃音反応が再発してしまう可能性がありま
す。これは「再獲得」と言われます。条件反応の回路は一旦消えたように見え
ても、その痕跡が神経細胞に残っており、再形成され易くなっているのです。

 このように、吃音の条件反応の消去は簡単ではありません。例え、消去でき
ても再発の可能性があります。吃音の条件反応を消すには、条件反応の原理と
ともに、神経細胞の性質や反応原理の理解が必要です。