8.神経細胞の仕組み


8.神経細胞の仕組み

 人間のあらゆる行動や反応は脳の神経細胞による情報伝達の仕組みの上に
成り立っています。例え、吃音が条件反応でないとしても、吃音も外界の条件
刺激に反応して起こる人間の行動・反応である以上、神経細胞がその仲立ちを
している事は明らかです。吃音の原因を考え、吃音の改善を図るには、脳の神
経細胞の仕組みや反応原理を理解する必要があります。

 脳の神経細胞、特にニューロンと呼ばれる大脳皮質の神経細胞は約140億
個(神経細胞同士を支えるグリア細胞も含めると1千億個超)あると言われま
す。この神経細胞は独立した情報処理を行っている器官で、細胞体が枝分れし
た樹状突起、細胞体の中心の核、細胞体の中心から長く伸びる軸索等から構成
されています。神経細胞は別の神経細胞と各々の樹状突起の先端が微小な空間
をはさんで接続されており、この部分をシナプスと呼んでいます。1つの神経
細胞は数千から万単位のシナプスで他の神経細胞と接続され、140億個とも
いわれる神経細胞同士が膨大な神経細胞ネットワークを形成しています。

 神経細胞はシナプスを通して別の神経細胞へ神経伝達物質(例えば、エンド
ルフィンやドーパミン等の化学物質)を放出します。神経伝達物質は受手側の
神経細胞の受容体で吸収され、膜電位と言う微弱な電位差を発生させます。1
つの神経細胞には複数のシナプスから膜電位が集り、細胞体の核付近で活動電
位と呼ばれるパルス状の微弱な電気が起こります。この電気が神経細胞の軸索
を通り終末のシナプスへと流れ、別の神経細胞へと信号を伝えて行きます。

 細胞が発する活動電位はスパイク又はインパルスと呼ばれ、活動電位の発生
を「発火」とか「脱分極」と言います。終末のシナプスでは活動電位を神経伝
達物質に変換し、次の神経細胞へシナプスから神経伝達物質を介して情報を伝
達します。このように、シナプス間では化学物質、神経細胞内では電気で情報
を流し、感覚器官からの情報を知覚し、延髄や脊髄へと伝達する訳です。
 
 神経細胞はシナプス接続によって情報伝達のネットワークを形成し、シナプ
ス接続の経路や効率の変化や神経伝達物質の種類等によって、記憶や学習とい
った人間の高度な機能を担っています。それは一種の電気回路であり、使えば
使う程に強化され、変化します。神経細胞のシナプス接続の仕組みが吃音の条
件反応を形成したメカニズムであり、神経細胞の可塑性(カソセイ、柔軟性)が
吃音改善のポイントです。ただ、神経細胞の可塑性は年齢とともに低下し、年
齢が高くなると吃音の改善には時間がかかるようになります。