9.神経細胞の反応原理


9.神経細胞の反応原理

 1つの神経細胞は、シナプスと呼ばれる微小な空間を通して他の数千もの神
経細胞と接続されており、膨大な神経ネットワークを形成しています。神経細
胞が他の神経細胞から神経伝達物質を受け取ると、電位差が発生します。複数
のシナプスを通して電位差が細胞体の中心へ集り、神経細胞の一定の閾値(イ
キチ、反応の下限値)を超えると、神経細胞が興奮してインパルスと呼ばれる
電気信号を流します。この電気信号が軸索を通って終末のシナプスから別の神
経細胞へ流れ、延髄や脊髄へと電気信号の指令が届き、身体が反応します。

 ある神経細胞が興奮するかどうかは、シナプスからの電位差が細胞体の持つ
閾値を超えるかどうかで決まります。その神経細胞の閾値が高いと、刺激に対
する許容値が高い事になり、神経細胞はその刺激に反応しません。シナプスか
らの入力刺激が閾値を僅かでも下回れば神経細胞はまったく反応せず、閾値を
僅かでも超えれば全力で反応する事になり、この原理を「全か無の法則」と言
います。つまり、スイッチがオンかオフかのどちらかに入る訳で、神経細胞は
アナログ刺激に反応するデジタル回路だと言えます。吃音者が同じような場面
でも、酷く吃る時とまったく吃らない時と、結果が極端に違う事がよくあるの
は、条件刺激が閾値スレスレの状態で「全か無の法則」が働いたからです。

 また、全か無の法則は、シナプスから入ってくる電位差の合計値で興奮する
かどうかが決まります。つまり、刺激は加算的に働きます。シナプス接続が多
いと同じ刺激が重複して入り、複数の違う種類の条件刺激があると刺激値は大
きくなり、神経細胞が興奮する確率が高くなります。逆に、条件刺激の種類が
少ないか、神経細胞のシナプス接続が少ないと、反応は起こり難くなります。

 神経細胞の興奮(発火)を促す働きを「促進性」と言いますが、神経細胞に
は興奮を抑える「抑制性」の働きもあります。神経細胞がマイナスの膜電位を
起こす伝達物質を放出する事もあり、マイナスの膜電位がプラスの膜電位を打
ち消し、興奮を抑制するのです。例えば、マイクを持って話すという成功体験
を繰返すと、マイクを持つ事が吃音の条件刺激を抑制する働きを持つようにな
ります。そうすると、大勢の聴衆という促進性の条件刺激があっても、マイク
という抑制性の条件刺激が働いて、吃音の反応が抑えられる訳です。

 以上のように、神経細胞が条件刺激にどう反応するかは、他の神経細胞との
シナプス接続の状態、抑制的に働く神経細胞や条件刺激の有無、神経細胞の閾
値、条件刺激の種類と強さ、といった様々な条件で決まります。