12.条件反応消去の注意点


12.条件反応消去の注意点

 以上のような原理で吃音の改善を進めるとして、条件反応の消去には、とて
も重要な「自発的回復」と「過剰学習」という現象があります。

 「自発的回復」というのは、弱い条件刺激を連続提示して馴化のメカニズム
で反応強度が下がったとしても、その効果が時間の経過とともに低減するとい
う現象です。話す練習を長時間繰返すと次第に話し易くなり、最初に吃った同
じ場面でもやがて吃らなくなります。しかし、練習を止めている間にその改善
効果は時間の経過とともに消えてしまい、条件反応の強度がまた元に戻ります。
吃音改善練習によって改善効果があったとしても、その効果は一時的なもので
あり、練習の休止期間が長いと、回復現象でその効果は消えてしまいます。

 ですから、改善練習を行うには、練習1回当りの正味練習時間だけでなく、
練習の頻度(間隔)が非常に重要です。1人当たりの十分な練習ができる長時間
の集中した例会で改善効果があっても、1ヶ月の間に改善効果は消えてしまい
ます。月に1度の例会では、毎回の改善効果はゼロクリアされてしまいます。
これまでの経験で言えば、例会での改善効果は2週間程度しかありません。例
会1回当りの時間だけでなく、例会の間隔や頻度にも注意しないと、まったく
無駄な練習の繰り返しになってしまい、何十年努力しても改善できません。

 次の「過剰学習」は、ある状況での練習で吃音の症状がまったく出なくなっ
ても、それは学習が完了したのではなく、神経細胞の内部では学習が進行中な
のです。つまり、ある場面で吃らないで話せるようになったとしても、その効
果は一時的なものであり、学習の途中なのです。条件反応の回路を書き換える
には、反応が出なくなってから更に過剰に学習しなければなりません。心理学
の各種実験での経験値としては、獲得に要した時間のさらに半分の練習を継続
しないと、その効果(新しい条件付け)は定着しないのです。例えば、電話練習
を始めて半年で吃らなくなったとしたら、更に3ヶ月の練習を継続しないとそ
の効果は定着しません。つまり新しい条件付けが形成できないのです。

 以上のように、中途半端な練習をしても効果はありません。1人が3分間ス
ピーチを数回行う毎週の例会に10年参加しても、1人が20分話せる月1回
の例会に10年参加しても、まったく効果がない可能性が高いと思います。吃
音改善研究会の例会は、1人が少なくとも正味30分以上練習できる例会を、
月2回開催することを基本としています。中途半端に10年練習するより、効
果的で効率的な例会に1年参加する方が確実に効果がでます。