Q & A

吃音に関する一般的な質問や疑問に答える形で、Q&Aを作成しました。
あくまで、私個人の考えに基づくものですが、参考にして下さい。>

(*)大きな文字でご覧頂く方法。(終わったら元に戻すのをお忘れなく)
@画面上の方 [表示]クリック A[文字のサイズ]選択 B[大]又は[最大]クリック




Q:「吃音は治らない」と主張する人がいます。吃音は治らないのでしょう   か?
Q:吃音は心理的なものか、肉体的なものか、どちらなのでしょうか?
Q:「吃音者の親や兄弟、親族に吃音者が多い」という話しをよく聞きます。   吃音は遺伝的な要素もあるのではないでしょうか?
Q:「治そうと努力すればする程、吃音を意識する事になり、かえって治   らない」と言われました。吃音は治そうとしない方が良いのでしょうか?
Q:「治すためには吃音を受容し、隠さない事が重要だ」といわれました。
Q:「言友会の中ではいくら吃っても逃げてはいけない。逃げずに話していれば、   吃音は軽くなる」と言われました。
Q:吃音が自然に治るという事はないのでしょうか?
Q:発声練習や腹式呼吸の練習は伝統的な練習法であり、多くの民間矯正所   でも実際に行われていますが、効果はあるのでしょうか?
Q:講談や詩吟を中心としたサークルの例会があります。   参加しても吃音改善の効果はないのでしょうか?
Q:心理療法で吃音を改善する団体に参加しています。そこの代表者は、   「言友会の例会でやるような練習は必要ない」と発言しています。
Q:「吃るのは呼吸の問題であり、腹式呼吸で治る。現に自分も呼吸法で治   った」と言う人が沢山います。本当に呼吸法で治るのでしょうか?
Q:「吃った時は、息を吸い込んで話せ」とよく言われますが、   息を吸い込もうとしてもできません。何故でしょうか?
Q:「吃るのは横隔膜が震えるのが原因だから、腹式呼吸で横隔膜の鍛錬が必要だ」   と書いてある本が沢山あります。   そうであれば、腹式呼吸は効果があると思うのですが?
Q:「催眠術で吃音は治る」という広告を見かけますが、本当に治りますか?
Q:歌を歌うと吃りませんが、歌う練習で吃音は治るのではないでしょうか?
Q:「半年で吃音は必ず治る」と宣伝したり、実用新案特許を取得した器具   を販売する吃音矯正所がありますが、本当に効果はあるのでしょうか?
Q:吃音矯正所はインチキな所ばかりで、効果はないのでしょうか?
Q:緊張したり不安になるから吃るのだと思いますから、緊張や不安を取り   除くような心理療法が効果的なのではないでしょうか?
Q:「吃音は治らない、例え治ってもすぐ再発する」と言われました。
Q:「深層心理に抱えている個人の問題が吃音となって表れるのだから、例え   吃音を治しても、他の症状が出るから無駄だ」と言われました。
Q:DAFという吃音を治す機械があると聞きました。効果はありますか?
Q:生活の発見会という団体で行っている森田療法という心理療法で吃音が治る   という話しを聞きました。
Q:中学生の息子が吃音ですが、「吃音は治さない方が良い」と言われました。
Q:私は高校生ですが、言友会の会員の方から「吃りながら話せば良い。   吃音を治そうとするな」と言われています。
Q:「ヨガや丹田呼吸で吃音は治る」という本があります。本当に治りますか?
Q:自宅で1人で朗読したり、発声練習をしたりしていますが、効果はありま   すか?
Q:例会やサークルに通う時間がないので、自宅で独りで訓練したいのですが、   どんな訓練をすれば良いのでしょうか?
Q:言友会は「吃音を持ちながら生きよう」とか、「吃音を受容しよう」とい   った方針の団体だと聞いています。入会しても吃音改善にはならないのでし   ょうか?
Q:例会に参加して練習するようになってから、例会でも前以上に吃るように   なりました。大丈夫でしょうか?
Q:言友会の例会やサークルに参加するとして、どんな例会やサークルに参加   すれば良いのですか?
Q:例会にどれ位参加すれば良いのでしょうか?
Q:吃音が治り易い人とか、治り難い人というのはありますか?
Q:東京言友会の例会やサークルに初めて参加するには、どうすれば良いので   すか?
Q:例会に参加して改善練習すると、どれ位で改善するのでしょうか?
Q:いくつかの例会で朗読やスピーチの練習をしていますが、電話が特に苦手   で、職場でも困っています。朗読やスピーチはうまくなりましたが、   電話でも吃らないようにするには、どうすれば良いのでしょうか?
Q:東京言友会のいくつかの例会に参加しており、例会の中では吃らないよう   になりました。今後はどうすれば良いのでしょうか?

Q:吃音は治らない」と主張する人がいます。吃音は治らないのでしょうか?
A: 吃音が治り難いのは事実ですが、普通の人程度に改善した人は大勢い   ます。個人差はありますが、1〜2年程度で周りが驚く程の症状の改善   は十分可能です。普通の人と同じ程度に話せるようになるとか、日常生   活で困らない程度に改善する、という意味では吃音は治ります。ただ、   吃音が治るという定義を「治ってから死ぬまでに一度も吃らない事」と   すれば、「治らない」という主張も正しいかもしれません。治るという   定義が明確でないと、「吃音が治るかどうか」の議論は無意味です。    「治らない」と主張する人の多くは、吃音が再発し易い事や、100   %完治しない事を理由としたものであり、症状の改善まで否定する意図   はないと思います。
Q:吃音は心理的なものか、肉体的なものか、どちらなのでしょうか?
A: 「心理的」という表現の定義が人によって違うため、議論が混乱して   しまいますが、心理的とも肉体的とも言えると思います。「心理」を「   アガリや不安のような、気持ちを落ち着ける事によってコントロールで   きる心の動き」と定義すれば、吃音は心理的なものとは言えません。    逆に、「外の刺激に応じて脳の神経細胞の働きによって起こる反応が   心理である」と定義すれば、吃音は心理的なものであると言えます。    私は、吃音は脳の神経細胞に条件反応回路が形成されたものであり、   意思でコントロールできない身体的な反応という意味で、吃音は肉体的   なものだと考えています。勿論、発声器官に器質的な欠陥があるのでは   なく、対人関係の条件刺激に過剰反応する神経細胞の反応回路(条件反   応)が形成されているだけです。つまり、特定の対人関係刺激に過剰に   反応する、神経細胞の機能的変化が原因だとも表現できます。
Q:「吃音者の親や兄弟、親族に吃音者が多い」という話しをよく聞きます。   吃音は遺伝的な要素もあるのではないでしょうか?
A: 近親者に吃音者がいた場合、遺伝的要素と考えるより、環境的要素と   考えた方が自然です。また、遺伝で吃音が発症するのであれば、吃音の   発症時期はほぼ同じ時期に偏るだろうし、吃音症状の個人差も小さいは   ずです。実際には、発症時期も症状も個人差が大きく、広い範囲にばら   ついています。それに、吃音が遺伝なら、吃音者同士の子供は非常に高   い確率で吃音になるはずですが、そのような事実もありません。   
Q:「治そうと努力すればする程、吃音を意識する事になり、かえって治ら   ない」と言われました。吃音は治そうとしない方が良いのでしょうか?
A: 吃音で苦労されたその人なりの体験に根ざした吃音受容の心境と、「   吃音は受容すれば治るのではないか」という期待の両方が反映された意   見だと思います。また、ある程度吃音が治った結果、吃音を意識しなく   なった人が、「意識しなくなったから治った」と勘違いした主張である   場合も考えられます。吃音を意識しなくなるのは素晴らしい事ですが、   意識しなければ吃音が治る訳ではありませんし、吃音を意識しないよう   にする事自体が非常に困難です。    吃音を治すかどうかの判断は個人の問題ですが、効果的な方法で治そ   うとすれば、努力する程、吃音が早く治るのは当然です。しかし、間違   った方法で治そうとすれば無駄な努力となる可能性が高く、過去の吃音   治療の歴史ではそのようなケースが多かったのは間違いありません。    結論は、正しい方法で行う限りにおいては、吃音を意識するしないに   関係なく、努力すれば吃音は良くなります。ただ、吃音問題の解決は一   つではなく、様々なアプローチがあり、症状の改善もその一つです。
Q:「治すためには吃音を受容し、隠さない事が重要だ」といわれました。
A: 吃音の受容は重要な事だし、周りに隠さずに生活できれば良いのは確   かです。しかし、吃音を隠さずに日常生活でも積極的に話す機会を増や   した結果として吃音が改善する可能性はありますが、吃音を受容し告白   すれば吃音が治る訳ではありません。周りの環境(難易度のレベル)と   本人の症状の程度のバランス関係によっては、吃音を隠さず、どんな場   面でも吃って話す事により、かえって吃音が悪化する場合もあります。       例会の練習では吃音を隠さず話す必要がありますが、日常生活の全て   の場面でも吃音を隠さずに吃って話せば良い訳ではないと思います。告   白する事が重要なのではなく、吃音を隠さない人間関係を持てる事が重   要なのです。
Q:「言友会の中ではいくら吃っても逃げてはいけない。   逃げずに話していれば、吃音は軽くなる」と言われました。
A: 言友会は吃音者の集りなので吃音を隠す必要もないし、吃って話して   も構わない場です。しかし、酷く吃って話せば吃音が軽くなる事はあり   ません。言友会の中であろうと、学校や職場であろうと、緊張する場面   で酷く吃ると吃音の条件反応が強化されてしまいます。酷く吃りながら   も逃げずに話すのは素晴らしい事ですが、吃音が悪化する可能性があり   ます。酷く吃る場面で無理して話すのは避けた方が賢明だと思います。
Q:吃音が自然に治るという事はないのでしょうか?
A: 吃音の症状は環境の変化によって多少は変化します。就職や転職、入   学といった大きな環境の変化によって、急に苦手な場面が増え、症状が   急激に悪くなる事はよくあります。逆に、環境の変化によって話し易い   場面や状況が増え、新しい環境の中で本人が積極的に話す機会を増やし   た結果、吃音症状が改善されるケースもあります。    ただ、吃音が自然に良くなるには、環境変化による難易度の低下と、   本人が積極的に話すという行動の両方の条件が揃わなければなりません。   「明日からいくら吃っても恥ずかしがらずに人前で話す」と悲壮な決意   をして、実際に酷く吃りながら話したとしたら、吃音はかえって悪くな   るはずです。これまでも、人によっては何十年も吃りながら話してきた   のに症状が良くならなかったように、職場や学校といった本人にとって   難易度の高い場面や状況で吃りながら話しても改善効果は生まれないの   です。改善効果が出るのは、ちょっと吃る程度の難易度で繰り返し話す   場合です。    つまり、吃音を自然に治すには、吃音の条件刺激が少ないか弱い場面   や状況を選んで、積極的に話す機会を増やす事です。配置転換や転職、   卒業といった環境の変化によって、話し易い場面や状況が増えた時がチ   ャンスです。話し易くなった環境で吃音を恥ずかしがらずに、ちょっと   吃る程度の症状で、積極的に話せば吃音は自然に治ると可能性があると   思います。外部環境、本人の意識、吃音の症状の3つのバランスが最も   重要なのです。
Q:発声練習や腹式呼吸の練習は伝統的な練習法であり、多くの民間   矯正所でも実際に行われていますが、効果はあるのでしょうか?
A: 発声そのものが正常にできないような、症状の重い人にはそんな練習   も必要かもしれませんが、普通の吃音者には必要ないと思います。ただ、   発声練習や呼吸練習は声の鍛錬になりますし、練習らしい練習をしてい   るという精神的満足感や達成感を得る効果があります。独りでの発声練   習や大勢で一斉に行なうような発声練習は、非常に効率の悪い練習であ   ることを認識した上で、改善に向けて努力しているという精神的効果を   狙ったり、本来の練習の前の準備運動として行うことをお勧めします。
Q:講談や詩吟を中心としたサークルの例会があります。   参加しても吃音改善の効果はないのでしょうか?
A: 講談や詩吟をやれば活舌も良くなりますし、例会の中では普通の自己   紹介や会話もあるでしょうから、話す訓練になります。また、講談や詩   吟が人前でできるようになる事で自信や度胸もつきます。その意味で、   講談や詩吟等のサークルに参加するのは大賛成です。しかし、最初から   最後まで講談や詩吟の練習だけでは、貴方が困っている場面(電話や司   会等)での吃音の改善は難しいと思います。
Q:心理療法で吃音を改善する団体に参加しています。そこの代表者は、   「言友会の例会でやるような練習は必要ない」と発言しています。
A: 例会での練習内容によっては効果があります。代表の方の発言は、滑   舌のための発声練習や呼吸訓練といった内容を想定してのものだと思い   ます。参加した例会の中で、日常生活の苦手な場面を再現して話す練習   ができれば、改善効果は確実にあります。参加している団体の心理療法   の考え方と矛盾するものではないと思います。    どのような理論や考え方に基づく心理療法であれ、吃音症状に変化を   起こすには、絶対的な時間と回数が不可欠です。考え方や理論が理解で   きても、肉体的な変容遂げるには訓練が必要です。その心理療法の考え   方を遵守しながら、他の例会やサークルの場を利用して実践すれば、吃   音改善の効果は飛躍的に上がると思います。
Q:「吃るのは呼吸の問題であり、腹式呼吸で治る。現に自分も呼吸法で   治った」と言う人が沢山います。本当に呼吸法で治るのでしょうか?
A: 呼吸は胸式呼吸が普通であり、正音者も吃音者も普通は胸式呼吸で話   しています。また、呼吸法が原因で吃るのであれば、呼吸法をマスター   した瞬間から吃らなくなるはずです。吃る状態になっているから呼吸が   乱れるのであり、呼吸の乱れや呼吸量の浅さが原因で吃るのではありま   せん。何より、呼吸法の練習を毎日行なっているプロの歌手や俳優にも   吃音者がいます。呼吸法で治ったと主張する人は、吃音が軽くなった結   果として呼吸が乱れなくなった事実を、「呼吸が乱れなくなったから吃   らなくなった」と原因と結果を取り違えているのだと思います。
Q:「吃った時は、息を吸い込んで話せ」とよく言われますが、   息を吸い込もうとしてもできません。何故でしょうか?
A: 「息を吸い込んでいないから吃る」とよく言われますが、吃音者が吃   っている時の多くは、息を吸い込んだままで固まった状態になっていま   す。人間は酷く驚いたり緊張すると吸息反射という反射が起こり、吸い   込んだ息を溜めてしまうためです。これは、天敵に遭遇した際に逃げる   ためのエネルギーを確保するためであり、防衛反応の一種です。このよ   うに、息を吸っていないからではなく、息を吸い込んだままになってい   るから話せなくなるのです。この状態で息を吸えないのは当然で、むし   ろ、息を吐く必要があります。    ただ、吐くにしろ、吸うにしろ、呼吸が自分でコントロールできなく   なっている訳ですから、簡単に息を吐いたり吸ったりできる訳でもあり   ません。また、呼吸の乱れだけが吃音の原因ではありませんから、呼吸   ができれば話せる訳ではありません。ただ、呼吸が普通にできるように   なればその分話し易くなるので、呼吸に注意するのは重要です。
Q:「吃るのは横隔膜が震えるのが原因だから、   腹式呼吸で横隔膜の鍛錬が必要だ」と書いてある本が沢山あります。   そうであれば、腹式呼吸は効果があると思うのですが?
A: 腹式呼吸は横隔膜を収縮させて呼吸するものですが、横隔膜は過度に   緊張するとコントロールできなくなり、心理的な緊張の影響を受けやす   い器官です。ですから、吃った状態になれば腹式呼吸で呼吸するのは難   しくなります。このような事実から、「腹式呼吸で吃音を治す」という   治療法が広まったものと考えられます。    しかし、呼吸できない事が原因で吃るのであれば、最も自然で心理的   緊張の影響の小さい胸式呼吸で呼吸すれば良いのであり、腹式呼吸の意   味がありません。横隔膜が緊張し易い器官であり、緊張すると腹式呼吸   ができなくなるのは事実ですが、「だから腹式呼吸で吃音を治す」とい   うのは論理的ではありません。    事実、女性に吃音者が少ないのは、女性が胸式呼吸に速く移行する為   と考えられます。赤ちゃんは最初、全員が腹式呼吸で呼吸しています。   それが、幼児期から学童期の途中で胸式呼吸に変わります。この際、女   児は身体的発達が早いという理由と、将来の妊娠出産のために腹筋の発   達が抑えられるという理由により、男児より早く腹式呼吸から胸式呼吸   に移行します。そのため、吃るような緊張場面に遭遇しても、女児は呼   吸が乱れる事が少なく、結果的に吃音になり難いと考えられます。    このように、呼吸が原因であれば、心理的緊張の影響を受けやすい腹   式呼吸より胸式呼吸をする方が合理的です。    ただ、腹式呼吸には、副交感神経を活発にして心身の緊張を抑える効   果があります。その意味で、腹式呼吸や丹田呼吸の練習をする事は意味   のある事ですが、あくまでも補助的な訓練と考え下さい。
Q:「催眠術で吃音は治る」という広告を見かけますが、本当に治りますか?
A: 症状が非常に軽い人が吃音の不安を軽減する効果はあると思いますが、   それも数日程度の暗示効果であり、永続的な効果はありません。まして、   普通に症状を持った吃音者にはまったく効果はないと言っていいと思い   ます。また、1回当りの費用も高く、何回もの継続治療が必要となり、   金銭面からも現実的な治療法ではありません。
Q:歌を歌うと吃りませんが、歌う練習で吃音は治るのではないでしょうか?
A: 確かに、ほとんどの吃音者は歌を歌う時や独り言では吃りません。そ   ういった事実から、歌を歌えば吃音を治せると考える人がいます。歌う   時は吃音を引き起こす条件刺激が少なく、また吃り難い方法で発声する   ために吃らないのであり、吃らずに歌えるのは不思議ではありません。    以上のような理由から、多くの吃音者は歌う場面で吃った経験がない   ので、歌では吃音の条件反応が形成されなかった訳です。でも中には、   歌でも吃る吃音者も存在します。ですから、歌う練習をしても改善効果   はありません。プロの歌手やカラオケ好きにも吃音者がいる事実からも   明らかです。    また、我々吃音者も実際に話している時間の大半で吃っている訳では   ありません。症状の軽い吃音者だと、1日にせいぜい数回程度吃るとし   て、1日に合計1時間話すとすると、99%の時間は正常に話していま   す。毎日、ほぼ1時間も正常に話す訓練を何十年と行っているのに、吃   音は治らない事になります。このように、その人にとって最初から何の   問題もなくできる事を練習する必要性はありません。
Q:「半年で吃音は必ず治る」と宣伝したり、実用新案特許を取得した器具   を販売する吃音矯正所がありますが、本当に効果はあるのでしょうか?
A: そのような宣伝をしている民間吃音矯正所はいくつかあります。半年   で30〜40万円程度の一括前払いのシステムで運営されており、体験   者からの話でも、ほとんど効果はありません。中には、先生自身が未だ   に吃っているという矯正所もあります。他の生徒と話せない個人指導限   定とか、高額料金の一括前払いとか、発声練習や呼吸法だけの練習とい   った矯正所は要注意です。    また、実用新案特許は、無審査で登録される特許であり、その効果や   効能が特許庁によって認められたものではありません。
Q:吃音矯正所はインチキな所ばかりで、効果はないのでしょうか?
A: 練習内容の是非はともかくとして、良心的な所もありますので、内容   や料金を調べて判断しましょう。言友会に参加している他の吃音者に聞   いてみるのが、一番間違いありません。料金一括前払いではなく、月謝   方式の所が安心です。他の生徒の練習の見学ができないとか、先生との   マンツーマンによる個別練習(独習も含まれる)だけといった矯正所は   避けた方が賢明でしょう。ともかく、治療期間は長期間になり、相当な   費用がかかります。言友会の例会やサークルを利用するのが一番安心で   すし、費用は比較になりません。
Q:緊張したり不安になるから吃るのだと思いますから、緊張や不安を   取り除くような心理療法が効果的なのではないでしょうか?
A: 緊張するから吃ると一般的に言われますが、吃音者は緊張していなく   ても吃ります。逆に、適度な緊張は身体のパフォーマンスを高め、話す   場合においても適度に緊張した方が流暢に話せます。これはスポーツ心   理学で「逆U字曲線」として知られる法則であり、緊張そのものが身体   の機能を下げるのではなく、過度の緊張がパフォーマンスを下げるので   す。そのため、自宅で家族と話す方が吃るという人も大勢います。    このように、吃音者は過度に緊張すると吃り易くなるのは確かですが、   不安や緊張といった心理的な反応に係わりなく、正常な発語が阻害され   るような身体反応が起こるから吃るのです。この身体反応を抑えられる   ような、直接的な効果のある心理療法でなければ効果は期待できません。    一般的に、心理療法の多くは肉体的な反応を変えるような効果を出す   には、効率の悪い治療法です。スポーツの例で言えば、オリンピック出   場選手は、フィジカルなトレーニングで筋力や技能を高めた上で、持っ   ている能力を100%発揮できるようにイメージトレーニングを行いま   す。心理療法はこのイメージトレーニングのようなものです。すでに必   要な筋力や技能が獲得できていて、気持ちの問題だけで能力を発揮でき   ない人が行うトレーニングです。実際に吃音状態を再現して行うフィジ   カルなトレーニングが集団の中で話す練習であり、身体反応を変えるに   は効率の高い練習法です。行動療法を除く心理療法は、不安心理の問題   だけの非常に軽い吃音者には効果がありますが、吃音症状のある普通の   吃音者にはコストパフォーマンスの非常に悪い治療法だと思います。
Q:「吃音は治らない、例え治ってもすぐ再発する」と言われました。
A: 吃音が治っても再発し易いのは事実です。それは吃音が条件反応であ   り、一度条件反応を消去できても、その痕跡が残っているため、再度条   件付けられ易くなっているからです。この現象は「条件反応の再獲得」   と言われます。一度治っても、条件刺激の強い場面に遭遇して吃り、そ   れを何度か繰返すと、吃音の条件反応がすぐ形成されてしまいます。そ   のため、一旦治っても再獲得が起きないように、しばらくは改善練習を   継続し、成功体験の繰返しにより新しい条件反応の書き込みが必要です。    練習の結果、吃音が改善され、まったく吃らなくなると、表面上は学   習(改善)が止まったように見えます。しかし、神経細胞の内部では学   習が進んでおり、反応が消えてから過剰に行う学習が、新しい条件反応   回路を作るのです。吃音の再発を防ぐには、吃らない反応回路を形成す   る必要があり、そのために一定期間の「過剰学習」が必要となります。
Q:「深層心理に抱えている個人の問題が吃音となって表れるのだから、   例え、吃音を治しても、他の症状が出るから無駄だ」と言われました。
A: それは、フロイトの精神分析主義的な古い考え方です。吃音が始まっ   た初期の幼児段階ではそんなケースもあるかもしれませんが、成人吃音   者の多くは、過去のトラウマや深層心理の問題が原因で吃るのではあり   ません。単に吃音の反応パターンが学習され、条件付けられただけです。
Q:DAFという吃音を治す機械があると聞きました。効果はありますか?
A: DAFは、遅延聴覚フィードバックの略で、自分で話した声をほんの   僅か遅らせて聞き取る器具です。これを装着して、自分の声を聴きなが   ら話すと、吃り難いというものです。自分の声を確認しながら話す事に   より、フィードバック効果と、結果的にゆっくり話す事、自分の声に注   意を向ける事による注意転換といった効果により、吃り難くなると考え   れます。この器具はかなり古くから存在し、携帯型の装置が数万円程度   で入手できます。    ただ、この装置を使って話すと違和感があり、長時間使用するのは困   難なようです。また、この措置を使ってゆっくり慎重に話せば吃らなく   ても、その効果が他の場面でも波及したり、永続的な効果があるとは言   えないようです。吃音症状が重い段階で使う器具、もしくは、ゆっくり   話す習慣をつける器具と考えるのが良いと思います。
Q:生活の発見会という団体で行っている森田療法という心理療法で   吃音が治るという話しを聞きました。
A: 森田療法は、日本で生まれた心理療法で、欧米でも注目されている歴   史のある心理療法です。しかし、森田療法は不安神経症等の治療に向い   た療法であり、吃音症状そのものへの効果はあまり期待できないと思い   ます。吃音の症状そのものよりも、吃音に対する予期不安や吃音恐怖と   いった不安神経症的な症状に効果があります。ほとんど吃らないのに、   吃音恐怖で苦しんでいる人には効果的な治療法だと思います。
Q:中学生の息子が吃音ですが「吃音は治さない方が良い」と言われました。
A: 小学生や幼児であれば、環境調整によって自然治癒する可能性も高く、   特に吃音の改善や矯正はしない方が良いと思います。しかし、中学生以   上で、吃音の原因となった心理的環境要因がないのに吃っているのであ   れば、早く治した方が良いと思います。吃音そのものが悪いものではな   いとしても、社会生活のハンデであるのは間違いありません。また、思   春期以降であれば、年齢が若い程、吃音の改善は容易です。その理由は   以下のように考えられます。   @吃音体験が短く、条件反応の強化が進んでいないので、症状も軽い。   A苦手場面や状況の経験が少なく、苦手な条件反応の形成が少ない。   B脳の神経細胞が柔軟で可塑性が高く、新しい条件反応の形成が早い。    結論は、吃音の原因となった環境要因が既に消滅しており、本人が吃   音改善を望むのであれば、早期の吃音改善をお勧めします。勿論、改善   しようとしなくても、自然治癒する可能性も少しはありますし、吃音の   症状はそのままで吃音を受容するという対応もあると思います。
Q:私は高校生ですが、言友会の会員の方から「吃りながら話せば良い。   吃音を治そうとするな」と言われています。
A: 吃音の受容は必要ですし、吃りながら話すのは立派な事です。だから   と言って、吃音の改善を放棄する必要はないと思います。吃音の改善を   目指すかどうかは貴方自身の判断です。少なくとも、人前で不自由なく   話せる軽い吃音者と、人前で5分経っても一言も話せない重い吃音者を   一緒に論じるのは乱暴です。症状の程度、現在の生活環境を考慮して、   本人自身が判断する問題だと思います。
Q:「ヨガや丹田呼吸で吃音は治る」という本があります。本当に治りますか?
A: ヨガや丹田呼吸を極め、身体反応を自由にコントロールできるように   なれば、吃音反応が起きても身体反応を正常に戻せるでしょうから、吃   らずに話せるかもしれません。ただそのためには、ヨガであれば、イン   ドのヨガの行者のように、1日10時間を超える訓練を何十年と続けな   ければなりません。丹田呼吸法も、心を落ち着け、身体反応を押さえる   効果がありますが、非常に緩慢な間接的な効果です。ヨガも丹田呼吸も、   補助的な練習として行うのは良いと思いますが、それだけでは非常に効   率の悪い非現実的な練習法だと思います。
Q:自宅で1人で朗読したり、発声練習をしたりしていますが、効果はあり   ますか?
A: 貴方が自宅で独りで朗読や発声練習をする時でも吃るのであれば、独   りでの練習も効果があります。完全にできるようになるまで、朗読や発   声練習を続けて下さい。一方、問題なくできるようになったら、独りで   の練習は必要ありません。スピーチ練習をするとか、家族の前で朗読す   るとか、例会に参加するとか、より難易度を上げて行って下さい。
Q:例会やサークルに通う時間がないので、自宅で独りで訓練したいのですが、   どんな訓練をすれば良いのでしょうか?
A: 結論から言えば、独りで何をやっても、吃音の改善にはならないと思い   ます。それは、独り(吃音を引き起こす対人関係の条件刺激がない場面)で   幾ら話す練習をしても、改善効果が働かないからです。    独りで朗読しても吃る人や、独り言でも吃る人は、独りでの朗読や独り   言はできるようになりますが、対人関係のある日常生活での改善効果はあ   りません。
Q:言友会は「吃音を持ちながら生きよう」とか、「吃音を受容しよう」と   いった方針の団体だと聞いています。入会しても吃音改善にはなら   ないのでしょうか?
A: 人によって多少の見解の相違はありますが、言友会は吃音改善を否定   している訳ではないと思います。現実に東京言友会には、吃音の改善や   克服を目的としたサークルが沢山あります。また、吃音改善目的のサー   クルに参加しなくても、言友会の活動の中で話す機会が増える事により、   結果として吃音の改善にも繋がると思います。少なくとも、会に入会す   る事により、吃音の悩みの軽減や親睦は図れます。
Q:例会に参加して練習するようになってから、例会でも前以上に吃る   ようになりました。大丈夫でしょうか?
A: 例会は練習の場ですから、吃音を再現する事が練習です。また、以前   だったら避けていた苦手な場面での練習であり、話す時間も増えている   ので、吃る頻度が高くなっても当然です。一時的に吃りが重くなったよ   うに見えますが、心配はありません。また、吃音改善を始める最初の段   階では、自分の症状の状態を客観的に理解して置く必要があり、心理療   法で言う「ベースライン」を確認しなければなりません。そうでないと、   吃音症状の改善状況が、本人も周りも分からなくなってしまいます。そ   のためにも、例会では吃音の症状を隠さず100%出す姿勢が必要です。
Q:言友会の例会やサークルに参加するとして、どんな例会やサークル   に参加すれば良いのですか?
A: 東京言友会には色々な例会やサークルがあります。ある程度の人数の   中で、話す機会の多い例会やサークルなら、どんな例会やサークルでも   良いと思います。極論すれば、吃音改善を目的としない例会やサークル   であっても、大勢の中で話す事により、吃音改善効果が出ますし、サー   クル参加に付随した付き合いやおしゃべりも改善に結び付きます。また、   1つの例会やサークルだけではなく、自分の症状や都合に合わせて、複   数の例会やサークルに参加する事をお勧めします。
Q:例会にどれ位参加すれば良いのでしょうか?
A: 参加する例会での練習内容や1人当りの正味の練習時間が先ず問題で   す。1回の例会で一時的にせよ改善効果が出て、その効果が次回の例会   までに残っていなければなりません。少々乱暴なガイドラインですが、   1人が正味20分以上話す練習ができる例会だとして、最低月2回、で   きれば毎週1回参加する必要があると思います。これは、本人の症状の   程度や年齢も関係します。20代であれば月2回の例会でも効果は出る   と思いますが、中高年であったり症状の重い人は少なくとも毎週参加し   ないと確実な効果は期待できないと思います。    結論としては、正味20〜30分の練習が出来る例会やサークルに、   少なくとも月2回、出来れば毎週、理想は週2回、というのが経験上か   らのガイドラインです。
Q:吃音が治り易い人とか、治り難い人というのはありますか?
A: 先ず、年齢が若いと改善は早く進みます。これは、若い人、特に就業   前の人は、職場での様々な場面での吃音の条件反応が形成されていない   ため苦手な場面が少ないからです。また、年齢が若いと脳の神経細胞の   柔軟性(可塑性)が高く、練習効果が早く出ます。    そして、例会での吃音改善練習を進めながら、日常生活でもある程度   楽に話す機会の多い人は、早く良くなります。例えば、例会で改善練習   を一生懸命にやっている人が、職場でも前よりは積極的に話す機会が増   えてくれば、相乗効果もあり、改善が早く進みます。    また、吃音症状の重い人程、吃音改善の初期の段階では改善が早く進   んでいるように見えます。これは、症状の重い人は、難易度の低い場面   や状況でも吃っている頻度が高いため、僅かの症状の軽減が吃音頻度の   大きな減少に結び付くからです。経営学で「ABC分析」やQC活動の   「パレート図」の概念と同様に、20%の改善が80%の効果を生む訳   です。
Q:東京言友会の例会やサークルに初めて参加するには、どうすれば   良いのですか?
A: 東京言友会の例会やサークルは原則として参加自由ですが、メンバー   制で自由に参加できないサークルもあります。東京言友会のHPで各サ   ークルの案内を確認して下さい。メンバー制でなければ飛び込み参加も   できますが、なるべくサークル代表者へ連絡して参加して下さい。    なお、東京言友会の会員でなくても、例会やサークルへの参加は可能   です。
Q:例会に参加して改善練習すると、どれ位で改善するのでしょうか?
A: 本人の症状の程度、年齢、参加頻度、例会での練習内容等にもよりま   すが、少なくとも、例会の中である程度の改善効果が出るまで3ヶ月程   度は必要です。そして、例会以外の場、例えば職場や学校でも僅かなが   ら効果がでるようになるには、更にタイムラグがあり、6ヶ月は必要で   す。それも、あまり難易度の高くない場面や状況での改善に限られます。    難易度の高い場面や状況の改善は最後になりますので、ほんとどの場   面での問題の解決には2〜3年はかかると思います。先ずは、月2回、   なるべく毎週参加して、3ヶ月は継続して参加して下さい。その結果で、   継続参加するかどうかを判断すれば良いと思います。    ただ、電話や挨拶とか、限定された場面や状況だけであれば、半年程   度での解決も可能です。
Q:いくつかの例会で朗読やスピーチの練習をしていますが、電話が特に   苦手で、職場でも困っています。朗読やスピーチはうまくなりましたが、   電話でも吃らないようにするには、どうすれば良いのでしょうか?
A: 朗読、スピーチ、電話と、吃音者が苦手な状況は個人によって違い、   練習効果は条件刺激に限定されてしまいます。つまり、共通する条件刺   激には波及効果がありますが、場面や状況が違うと条件刺激も違うため、   波及効果は働きません。電話が苦手な人は電話の練習をしなければなり   ません。例会の中で電話の練習をするか、電話練習の目的で実際にあち   こちに電話してみると良いと思います。
Q:東京言友会のいくつかの例会に参加しており、例会の中では吃らない   ようになりました。今後はどうすれば良いのでしょうか?
A: 例会の中での難易度と、実生活の本番とは違います。例会の中で吃ら   ずに話せるようになったら、いよいよ本番での実戦練習です。職場や学   校で、これまで苦手だった場面や状況でも練習と思って積極的に話すよ   うにする必要があります。例会と比べたら難しいのは間違いありません   が、当初と比較すれば大分良くなっているはずです。    スポーツ心理学の実験では、現在の能力に対して110%の高い目標   設定をして行うトレーニングが一番効率的です。つまり、本番の実戦で   も90%以上の状態で話せるようになったら、本番での実戦練習の段階   です。こうなれば毎日が練習であり、例会に参加する必要は特にありま   せん。このように、日常生活の実戦練習に如何にソフトランディングす   るかが、最後の課題です。